人に善行を促すフレームワーク「善行の三要素仮説」のご提案

本稿は「善行の三要素仮説」を提案する論説記事です。UX Yokohamaブログでは行動誘発のためのデザインテクニックだけでなく仮説レベルの理論についてもご紹介していきます。 

「善行の三要素」仮説の提案

善行の三要素仮説とはすなわち「動機・機会・正当化の3要素すべてがそろった時に善行は発生する」とする仮説です。

この仮説は米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーの提唱した理論「不正の三要素」を元にしており、善行発生も不正の三要素と同じフレームワークで説明できるとする仮説です。

この仮説は、多くの人に善行を促すにはどのような社会的仕組みをデザインすべきかという思索から生まれました。もしも仮説が正しく且つ善行の三要素を提供する社会的仕組みをデザインできれば、いまよりも多くの人が善行を為す可能性があるということです。 

 「不正の3要素」理論とは

仮説の元となった「不正の3要素」理論について説明します。「不正の3要素」理論(または「不正のトライアングル」理論)とは、米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーの提唱した理論で「動機・機会・正当化の3要素すべてがそろった時に不正は発生する」というものです。

「動機」不正を犯す必要性
「機会」不正を実行可能な状況
「正当化」自己弁護のための口実

たとえば学校のいじめ問題は「動機:ストレスから逃れたい欲求」「機会:教師の不在」「正当化:態度の生意気な奴はいじめても良いとみんな(少人数の不良仲間のこと)が言っている」といった要素がすべて揃うことで発生します。不正を防止するためには3要素の最低どれか一つでも解消する必要があります。

不正の三要素の善行への適用

ではここで「善行」について考えてみましょう。たとえば「満員電車でお年寄りに席を譲る」という善行を乗客全員が行うわけではありません。人が善を為さない理由とはどのような理由でしょうか?敬老の気持ちがない、実利がない、お年寄りの存在に気づかない、体調不良である、公共の場所でひとりだけ目立つ気恥ずかしさ、等々さまざまな理由が考えられることでしょう。

さて、挙げられたさまざまな善を為さない理由、これらもまた機会・動機・正当化の三要素に分類できるとは思いませんか?不正の正当化は社会から排除されたくない気持ちの現れであるので、善行の正当化はルールや社会的証明と読み替えればうまく収まりそうです。

「善行の動機」善行を為す必要性
 ・敬老の気持ちがある
 ・実利がある
「善行の機会」善行を実行可能な状況
 ・困っているお年寄りの存在を認識している
 ・体調が万全である
「善行の正当化」自己弁護のための口実
 ・みんなが行っているという事実がある

「善行の三要素」仮説の提案

「善行の三要素」仮説は検証の不充分な仮説であるので、この記事を読んでいる皆さんにも可能であればご意見をいただきたいところです。ぜひ皆さんも「多数の人が満員電車でお年寄りに席を譲らない理由」について考えていただき、挙がった理由が三要素に分類できるかについて試していただきたいと思います。

UXデザインは対象範囲の中に「行動変化の誘発」を含みます。UX Yokohamaブログでは行動誘発のためのデザインテクニックだけでなく仮説レベルの理論についてもご紹介していきます(森山)。

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