UX Yokohama のワークショップでたびたび取り上げている「シカケ」について

UX Yokohama のワークショップでたびたび取り上げている「仕掛学」および「シカケ」についてご説明します。

「シカケ」とは

シカケとは、「問題解決につながる行動を誘発するきっかけとなり得るもので、且つ "シカケの3要件" を含むもの」を指す概念です。「仕掛学」とは「シカケ」を研究する学問のことです。たとえばゴールポスト型のゴミ箱(思わず投げ入れたくなる→ゴミ放置が減る)や、駅のホームの床に描かれた乗車待ち行列の並び位置指示線(思わず線に沿って並びたくなる→乗降が円滑になる)が「シカケ」に相当します。

「シカケ」は、UXデザインの持つ3つの側面「イノベーション」「経験価値」「セールステクニック」のうちのセールステクニック(消費者の購買行動を誘発するテクニック)としてのUXデザインを、課題解決に応用したものです。「シカケ」の概念は、大阪大学大学院准教授の松村真宏氏により2015年に論文発表され、2016年には書籍化(http://amzn.asia/btX0PiF)されました。

勉強や禁煙といった心理的苦痛の伴う行動を人にとらせるには一般に「行動変容法」と呼ばれるアプローチが取られますが、「シカケ」の場合、行動する本人に問題解決したいという意思はありません。シカケは正攻法でうまくいかない時のセカンドプランと言えます。

シカケの3要件

仕掛学においては、シカケには3つの要件:誘引性(行動が誘われる)・目的の二重性(仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる)・公平性(誰も不利益を被らない)が必要であるとされています。

駅の乗車待ち行列の並び位置指示線は、駅利用者の心に「皆で並んだ方が美しい」「皆並んでいるのだから自分もそうするべきだ」等の想いを誘発し、その想いが実際の行動へとつながります。これが「誘引性」です。

駅の乗車待ち行列の並び位置指示線は、実際には「乗客の乗降を円滑にして運行遅延を防ぐ」目的で描かれたものであって、人々の美しく整列した姿を見たいからではありません。これが「目的の二重性」です。

誘引性を悪用することで利用者自身にとって不利益な行動を利用者に取らせることも可能ですが、そのような悪意ある仕掛けは定義上「シカケ」に含まれません。これが「公平性」です。

シカケの仕組み

「シカケ」においては、行動の誘発は「物理的トリガー」と「心理的トリガー」という2つの段階を経るとされています。人の行動が変化する際には必ず心理の変化が前段階として存在し、心理変化を誘発するのが物理的なモノとしての「シカケ」になります。

心理的トリガー(心理変化を誘発するテクニック)として、「挑戦」「不協和」「ネガティブな期待」「ポジティブな期待」「報酬」「自己承認」「被視感」「社会的規範」「社会的証明」の9つのテクニックがあります。

「挑戦」

人間のチャレンジ精神に訴えかけるテクニックです。ゴミ箱をバスケットボールのゴールポスト型にデザインする事例などが該当します。

「不協和」

人間の美意識に訴えかけるテクニックです。漫画の単行本を全巻揃えると背表紙全体が1枚の絵になる事例などが該当します。

「ネガティブな期待」

行動しないと損をすると思わせるテクニックです。幼児用おもちゃの誤飲防止用に苦い味をつける事例などが該当します。

「ポジティブな期待」

行動すれば得をすると思わせるテクニックです。階段の蹴込(垂直面)に階段登り運動の消費カロリーを記載する事例などが該当します。

「報酬」

行動に対して報酬の提供を約束するテクニックです。スタンプカードのスタンプ数に応じて特典を提供する事例などが該当します。報酬の確約ではなく当選のチャンスの提供でも効果があるとされています。

「自己承認」

自分の思い描くあるべき自分になりたいと願う欲求に訴えかけるテクニックです。公共の場所に鏡を置いて髪型を気にする人を引き寄せる事例などが該当します。

「被視感」

誰かに見られている時は行いを正さねばならない、という心理に訴えかけるテクニックです。落書き禁止の貼紙に壁に目玉の絵を描く事例などが該当します。

「社会的規範」

法律や道徳その他の社会的ルールには従わなければならない、という心理に訴えかけるテクニックです。駅の乗車待ち行列の並び位置指示線に沿って利用客が並ぶ事例などが該当します。

「社会的証明」

周囲の人々の行動からそこになんらかの社会的ルールがあるに違いないと思い込む心理に訴えかけるテクニックです。エスカレータの右側を急ぐ人のために開けておく慣習などが該当します。

さいごに

「シカケ」は、UXデザインの持つ力を人間の行動に起因する問題の解決のために応用したもので、かつ、シンプルなフレームワークに絞って体系化されたものです。シンプルであるがゆえに誰もが利用しやすく様々な問題の解決に応用可能です。

 この記事は大阪大学大学院准教授松村真宏氏の著作「仕掛学」に基づいて作成されました。仕掛学の詳細は書籍を参照してください。

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