日本政府も注目する人間行動コントロール理論「ナッジ」とは

ナッジとは

上の写真は東京駅の階段に貼られた「階段を10段登る運動の消費カロリーの目安は0.8キロカロリーです」という案内札です。これは通勤客の健康を考えて貼られた札ではありません。エスカレーター渋滞の緩和のため、通勤客に日頃の運動不足を思い出させ、階段を使わせるために貼られた仕掛けなのです。これが「ナッジ」です。

ナッジとは、米国シカゴ大学リチャード・セイラー教授の提唱した概念で「選択肢を制限することなしに他人の行動の修正を促す手法」とされています。日本では2008年に書籍「実践 行動経済学」(日経BP社)によってナッジの概念が紹介されましたが、2017年にセイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことでナッジにも注目が集まりました。

ナッジの事例

セイラー教授によって紹介されたナッジの事例には以下のようなものがあります。

  • アムステルダムのスキポール空港は男子トイレの小便器の内側にハエの絵を描いた。ハエの絵は利用者の「標的に命中させたい」という心理を喚起し、利用者は意図せず小便器を丁寧に使うようになった。その結果、清掃費は8割減少した。
  • シカゴの学校のカフェテリアで、サラダなどの健康に良いメニューを利用者の取りやすい位置に配置し直した。その結果、健康メニューを選ぶ人の割合が以前に比べて35%増えた。
  • 英国政府は税金滞納者に対して「あなたの住む地域のほとんどの人は期限内に納税しています」という趣旨の手紙を送るようにした。滞納者は強い社会的圧力を感じるようになり、結果として納税率は68%から83%に改善した。

日本政府のナッジ実践事例

米国政府や英国政府によるナッジの実践が成功を収めていることから、日本でも環境省がナッジ理論に基づく地球温暖化対策の促進を試みています(「平成29年度 低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」)。具体的には、社会実験として対象世帯に電気やガスの利用状況や節約方法の案内を送り、節約行動を促すとしています。

ナッジの手法

実際のところ、ナッジとは優秀なセールスマンが経験的に知っていたセールステクニックの応用にすぎません。しかしながら、ナッジは学問であり、科学的裏付けがあり、社会全般に応用が可能です。ナッジの代表的なテクニックには以下のようなものがあります。

デフォルト

とって欲しい行動を初期設定値として設定しておく。

  • 例:Amazonプライムの1ヶ月無料キャンペーン。初期設定は「無料期間終了後は有料会員として継続」になっている。

フィードバック

とって欲しくない行動が起きたら直ちに注意喚起する。

  • 例:自動車のシートベルト。ベルトを閉めずにエンジンをかけるとランプやBEEP音で警告する。

インセンティブ 

とって欲しい行動が起きたら報酬を与える。

  • 例:スマートフォンのゲームアプリ。毎日ゲームを起動するだけで1日1回ログイン報酬がもらえる。

選択肢の構造化

複雑な選択肢をわかりやすく整理する、またはあえて少数に絞る。

  • 例:レストランのメニュー。「当店おすすめ」などの表示で実質的に選択肢を減らしている。

ゴールの可視化

とって欲しい行動のゴールと、ゴールまでの距離を可視化する。

  • 例:スタンプカード。特典入手に必要なスタンプの数が明確である。

ナッジの悪用の可能性

セールスマンに良心的なセールスマンと悪徳セールスマンがいるように、ナッジの手法も悪用が可能です。政府が国家規模でナッジの手法を悪用することも理屈の上では可能なのです。ナッジを悪用する悪者に騙されないよう、国民一人ひとりがナッジの理論を知っておくべきだと考えます。(森山)


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